彼はこう切り出した。「辛いもの好き?」
「うちの奥さんより辛さ耐性はないけど、辛いのは割と好き」
「そう!あのさぁ、いろんな店で辛さ表示してるでしょ。唐辛子のマークで二つ分とか。あれがね、店ごとに違うわけ、実際に感じる辛さと。それを統一したいの。例えば……」
彼はしばらく辛さ統一の必要性を熱く語った。自動車の速度計がA社の40キロとB社の40キロで車の速さが違ったらおかしいだろ!?というわけだ。なぜ、世界標準辛さを作る必要があるのか、イマイチわからなかったが、「面白そう」と答えた。
面白いと思った根拠はいくつかある。一つ目、このくだらないプロジェクトを真剣に考えている彼が面白い。二つ目、既にそのための会社を設立し、アプリまで作って公開しているというそのやる気。ダウンロード数、約5万というからなかなかのものだ。まさにシチズン・サイエンス。そして三つ目。辛さの知覚は舌からではないとのこと。いわゆる「旨味」ではなく「痛み」と同じなのだそう。すると辛さの標準化に成功すると、同じように痛みの標準化ができるかもしれない。医師が知っている痛みの程度と患者が実際に感じる痛みのずれを埋めることができたりするかもしれない。
私が辛さ統一プロジェクト=辛メーター作りを好意的に受け止めているのを知って、彼はこう言った。「今さ、このプロジェクト、壁にぶち当たってる。俺はさらに進めたいと思ってる。日本だけでなく、海外でもとか、辛さ指標の精度を上げるとか、もちろん、エンターテインメント性の向上も。そこでさぁ、なんか、手伝ってくれたりするとうれしいんだけど?」
昔の私なら即答しなかっただろうが、今は違う。30年振りに会いに来た知り合いが友達になったのだ。断る理由などない。居酒屋を後にして、30分くらいの間、我が家に招いてコーヒーを出した。その間、彼はうちの奥さんにも熱く語った甲斐があり、現役研究者である奥さんの協力までこぎつけて帰って行った。なんとも不思議な縁だ。
Recommendation: Friends Will Be Friends by Queen
辛メーター
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